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大阪高等裁判所 昭和32年(ネ)631号 判決

控訴人 山城油脂株式会社

右代表者代表取締役 常田治平

右訴訟代理人弁護士 土田吉清

同 十川寛之助

被控訴人 松下電器産業株式会社

右代表者代表取締役 松下幸之助

右訴訟代理人弁護士 高橋武

右訴訟復代理人弁護士 松浦由行

主文

本件は控訴人の昭和三七年九月二一日付書面による控訴の取下により終了した。

控訴人の昭和三七年一〇月二六日付書面をもつてした控訴人の口頭弁論期日指定申立後の訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、本件控訴事件につき控訴会社代表者常田治平(以下単に常田という)本人より昭和三七年九月二一日付で本件控訴取下書が提出され、同日訴訟代理人弁護士土田吉清、同十川寛之助に対する解任届が提出されたが、右解任届及控訴取下書は左記の事由により無効であり、本件はなお当庁に繋属しているので口頭弁論期日の指定申立に及んだ。すなわち、

一、本件につき本人より提出された右訴訟代理人解任届はその代理人に対する解任(委任解除)の通知なくしてなされたものであるから未だ解任の効力は発生していない。

二、本件取下がなされた経緯は次のとおりである。昭和三七年六月一三日の本件口頭弁論期日には双方代表者本人尋問が予定されており、控訴人としてはその対質尋問により控訴人側の勝訴が予定されていたのであるが、当日常田はその代理人弁護士土田より旅費送金により来阪したが、その節同人が土田弁護士に対しいう所によれば「井上という参議院議員と偶然前夜銀座で会つたが、被控訴会社代表者松下幸之助(以下単に松下という)は病気で明日は出頭しないだろう。」とのことであつたので当日は代理人において出廷したところ、松下が出廷しており意外であつた。そこで代理人において本人常田に連絡をとり出頭するよう事務所に連絡したが、本人と連絡つかず当日は結局控訴代理人において双方の対質尋問を希望したところから延期され次回を九月二四日午後一時に指定された。そして本件取下はその間同年九月二一日になされるに至つたものであるが、右取下にいたる前に参議院議員井上清一と松下は共謀して謀略術策をたくましくし、右井上は当時旅費にも窮する程の経済的苦境にあつた常田を東京より京都市に誘いよせ依頼弁護士をぬきにし、これに秘してひそかに一週間にわたり常田を駅前旅館にとじこめ経済的窮迫にある同人に対し同人が松下を文書偽造行使で告訴せんとして準備しているのを粉砕するため、同人の窮迫軽卒無智無経験に乗じて、同人を精神錯乱に追込みその意思決定の自由を奪つた上で、松下との間で涙金名下に(但し借用名下に詑証文迄とり)金五〇〇万円で和解をとげ、松下はかねて用意せる本件取下書に常田をして署名捺印せしめて同人よりこれを取上げたものである、そして右五〇〇万円も本件事案よりみて著しく不均衡な小額の涙金にすぎない。松下はこの涙金を控訴人ににぎらせて不公正な手段をとつて事件を糊塗したものである。すなわち、

(一)  被控訴会社は日本資本主義経済下の経済的絶対優位者で圧倒的強力者である。控訴会社はこれにひきかえ六法全書ひとつのあわれな「こびと」にすぎない。両者は社会経済的に余りにも隔絶したものであるが、被控訴会社は右圧倒的優位者の地位を異常に迄悪用し、その代表取締役松下は参議院議員井上清一と意を通じて、旅費にも窮して経済的窮迫の一歩手前にある常田を京都におびきよせ、同人の無知窮迫に乗じて、控訴代理人に一切云わず、代理人を解任させると同時に僅少の金員を餌にして示談を強要し金力を以て司法事件を抹殺する挙に出て控訴人の経済的窮迫に乗じて控訴の取下をなさしめたものであるから右取下は公序良俗に反し、民法第九〇条により無効である。

(二)  本件控訴の取下について常田の合意がない。松下の一方的圧力による取下の申込があつたとしてもこれに対する常田の承諾には自由意思を欠いている、すなわち、申込と承諾の合致がないから無効である。

(三)  被控訴人は控訴人の弁護士活動を封じて本人に対し直接交渉し控訴人にわずかに残された六法全書ひとつが頼りの正義の実現の場を金力を以て奪い去り常田をして正義の戦の武装解除をなさしめたものである点において右取下は無効である。

(四)  本件取下書は控訴人の無智窮迫に乗じ而も同人を旅館にとぢこめ極度の不安状態に陥れ常田を精神錯乱状態に追いやつて意思決定の自由を奪つた上においてなさしめたもので、全く意思決定の自由を奪い去られた状態においてなされたものである点において無効である。

(五)  右取下書は常田が死を以て抗議しようとまで思いつめた状態に追いこまれ署名捺印されたもので、松下、井上は強要による犯罪行為にまで及んで常田より取下書を取上げたものである。このような犯罪行為による控訴の取下は無効であり、このような強迫されてなした取下であるから控訴人はこれを取消しうるものである。なお乙第一七、一八号証は右井上が自己の強迫の立場を偽装するために取下後に常田に案文を示し書かせたもので常田の意思に出たものではない。

(六)  右取下は非弁護士井上の介入によつてなされたもので、弁護士法違反の点において無効である。

と陳べ、右証拠として≪省略≫

被控訴代理人は、本件は控訴会社代表者常田本人よりの有効な控訴取下げにより終了しているのであつて、(一)本件期日指定の申立をした土田弁護士は既に解任届が出された後であるから権限がない。(二)而して本件控訴取下は本人が訴外井上清一を介し和解を申入れ、和解成立によつてその自由意思により取下がなされたのであつて、控訴人主張のような無効又は取消原因となるような事実なく、却つて常田本人は右和解について被控訴人に対し感謝しているのであつて、これを不服として取下の無効を主張するのは本人でなく控訴代理人である。なお、本件期日指定の申立をした控訴代理人土田吉清の訴訟代理権は本人よりの同弁護士に対する解任届が裁判所に提出された後になされたものである以上同弁護士の訴訟代理権は消滅している。と陳べ、立証≪省略≫

理由

よつて案ずるに、原審において本件につき昭和三二年四月一一日控訴人の請求を棄却する旨(請求趣旨は被控訴会社の株券(三万五千株)に対する控訴人の所有権確認)(訴額一七五万円)の判決の言渡がなされ、その判決正本が同年五月二四日、控訴人に送達せられたところ、控訴人は右判決に対する控訴のため弁護士土田吉清を選任し、右代理人によつて同年六月五日控訴状が当裁判所に提出され、その後当裁判所において右事件を審理中、昭和三六年一一月一四日午前一〇時(第二三回)の口頭弁論期日において双方代表者本人尋問を採用され次回期日は昭和三七年二月二日午前一〇時と指定されたところ、該期日(第二四回口頭弁論期日)に控訴代表者本人は出頭したるも被控訴代表者本人は欠席したるを以て、右証拠調は延期され、更に続行期日は同年四月一三日午後一時と指定され、該期日はその後同年六月一三日午後一時と変更され、右変更期日(第二五回口頭弁論期日)には被控訴代表者松下幸之助出頭したるも控訴代表者本人常田治平は不出頭のため更に該期日は延期され次回期日は同年九月二四日午後一時に指定された。ところが、その間同年九月二一日付で控訴人代表者常田本人名義で控訴取下書が書留速達郵便(守口局発信)にて当裁判所に提出され、同月これが受付けられていること。なお同日右控訴人代表者本人より弁護士土田吉清、同十川寛之助(同弁護士に対する委任状は昭和三七年四月一一日提出されている)に対する解任届が当裁判所に郵便提出(大阪中央局発信)されていることは当裁判所に顕著である。

そこで右取下書提出の経過に関して審究するに、≪証拠省略≫の全趣旨を綜合すると、次の事実が認められる。

本件は昭和三七年六月一三日の口頭弁論期日において常田及松下の両代表者本人尋問が予定されていた。しかし常田は当日法廷には出頭しなかつた。そして控訴代理人は敢て対質尋問を求めたので、松下は出頭していたが尋問を延期され、次回は同年九月二四日と指定された。これより先同年一、二月頃常田は自己の親戚筋に当る参議院議員井上清一が松下を知つている関係上同人に本件について松下に示談の意思の有無を打診方申込んでいたので、井上は同年夏参議院の選挙が終つた頃松下に右打診した結果松下より本件は無理な訴訟であつて示談することは筋が通らない旨つげことわられたので、その旨、常田に伝えた。そこで常田より九月四日付で松下宛に「従兄弟である井上を介してお願したが示談はことわられた。しかし是非一度会つてくれ、もし尊台(松下)からいうて井上に同席願えればこれにこしたことはない。自分一人でお伺させていただく」旨の懇願の手紙(乙第一九号証の一、二)を出した。松下はこれにより井上と常田との関係を知り、井上の立場を考え井上が連れてくるなら常田に面会してもよい旨東京にあつた井上に電話し、井上は常田にその旨伝え、同人と日を打合せて同年九月一五日頃京都で落合い(常田はその前日入京した)、京都市内南禅寺の真々庵(松下の別荘)において井上、常田、松下の三人は面会した。その際常田より示談の申出があつたが、松下は「理屈は成立たぬと思う。会社を相手にしていることだし私は証人として次回に裁判所に出るつもりである。和解の意思はない。」といつてこれを拒否したが、常田はその間当初一億円を要求し、結局一千万円を出してくれといつたが一千万円もの大金では問題にならなかつた。松下は更生資金として三〇〇万円まで出そうと提案したが常田は承服せず妥結を肯じなかつた(そして当日常田は右会談の席上松下に対し告訴の準備をしている等の話はしなかつた。)その後一週間程の間常田は京都駅前の旅館に泊り、井上は松下に会つたり電話連絡したりして仲介の労をとつたが、結局九月二〇日井上は常田に対し「松下より五〇〇万円の線を示し、これ以上はどうしても出さぬというので、これをのむかどうか。」と連絡したところ常田は仕方がないといつてこれを承諾した。井上は常田に「それでよければ明日被控訴会社文書課の植田課長の所に行つてくれ、」とのことであつた。そして右妥結に達する迄の間常田は自己の意思で右旅館を選択し投宿したものであり、またそこにとじこめられていたわけでもなく、その間京都の井上の家にも出入し、示談の成立を自ら希望していたわけで、松下本人に直接面会したのは前示一回だけで、爾後の交渉は井上において常田の意をくんで松下に交渉を重ねて右妥結に達したのである。翌九月二一日常田は前日の井上よりの連絡により右取引のため単身被控訴会社に植田捨吉文書課長を尋ね、常田において念書(詑状)を差入れ控訴取下の手続をなし(本件取下書は常田本人において署名捺印し、その郵送の封筒の宛名、差出人名も本人において書いた)、金五〇〇万円(内一〇〇万円現金、内四〇〇万円電送済証)を松下が常田の申出によつて更生資金として貸与した、但し返還を要求しない約束(実質上贈与)で受取り、なお双方各訴訟代理人にはお互に責任をもつて諒解をうけると約束した。その結果常田は本件控訴取下書並に解任届を裁判所に郵送するに至つた(なお右解任届は常田本人が全文を自ら認め大阪中央局より書留速達便で同日提出した)。しかし常田はこれまで本件について自己の大阪への出廷旅費まで立替送金をしてくれていた自己の訴訟代理人土田弁護士に右示談交渉を秘して行い、成立した示談の結果報告もせずその諒解も得ないまま所在をくらましていたので、同弁護士は同人の身を案じていたところ、右取下書並に解任届が裁判所に出ていることを知り慣慨、同年一〇月三、四日頃上京、井上を訪ね、同人に対し、右は専ら同人の策謀によるものとの前提の下に不信をのべ、常田にも会い事情を聴取して帰阪したが、他方常田は松下に対し一〇月六日附(同月八日消印)で、「御高意ある配慮を賜り厚く御礼申上げます。二三日前当方弁護士土田吉清氏が来り井上氏と面会後私の処にやつて来て、訴訟を取下げたことについて非常にふんがいし、尊堂(松下)と私を告訴するというのです。松下から貰つた金を半分よこせなど申しています、土田氏には五〇万円送つてやつたことからこんなことになりました。私自身……(中略)土田氏より告訴をうけてもかまわないが、もし尊堂に万一のことがありましては……(中略)真に申上げにくいのでございますが二五〇万円ばかりやつて頂けないでせうか」との手紙(乙第一七号証の一、二)を出し、その返事がないので更に植田文書課長宛に同年一〇月一六日附(一七日消印)で前記松下に対する挨拶旁々お願した件についての返事を頂けないので今一度貴殿を通じてお願してほしい旨記載した手紙(乙第一八号証の一、二)を出したが、植田課長は貴意にそいかねる旨の回答をよこしてきた。ところで右手紙の内容についてであるが、右一〇月六日附の発信当時常田はまだ土田弁護士に五〇万円の謝金を送金していなかつたし、又土田より東京で二五〇万円の謝金の要求があつたわけでもないのに、常田としては土田弁護士に対する自己の立場に窮し、同弁護士が松下側の態度に慣慨していたところから松下に右追銭の要求をしたものと推認される(もつとも常田は土田弁護士に右手紙を出した後五〇万円を同弁護士に送金した)。控訴人は右乙一七ないし一九号証の各一、二の各手紙は井上清一の指図によつて作文したもので自己の真意に出たものでないといい当審における常田本人尋問の結果中右主張にそう供述部分があるが同人の右供述は当審証人井上清一の供述にてらし措信し難く他にこれを認めるに足る証拠はない。

以上の事実が認められ右認定にそごする如き前記控訴会社代表者本人の供述部分は措信し難く他に右認定を左右する証拠はない。

以上によれば、本件控訴取下書に結局控訴人の自由なる意思決定に基いて作成提出されたものであることは動かせない。ところで、控訴取下は一旦提起した控訴即ち原判決に対する不服申立としての審判請求を撤回する訴訟行為であつて(控訴取下はこれによつて相手方の利益を害することはないから相手方の同意を要しないで有効にできる点において訴の取下と異る)、純然たる裁判所に対する意思表示を内容とする訴訟行為(一方的意思表示)である。従つて私法行為を包含するかの裁判上の和解等と異り、私法行為に伴う意思表示の瑕疵についての民法の規定をそのまま控訴取下に適用する余地がない。このような純然たる訴訟行為については手続の安定性の要請からその効力は専ら訴訟法によつて劃一的に決すべく特別の規定のない現行法の下においては詐欺強迫錯誤による場合でも一般にその無効取消の主張は許されず、またそれは訴訟を終了させる意思表示であるから、撤回することもできない(東京高裁昭和三二年四月九日判例時報一一二号三〇六六頁)。わずかに、その取下が詐欺脅迫等刑事上罰すべき他人の行為にもとづくときに限り、民事訴訟法四二〇条一項五号前段を類推してその効果を争うことができるにすぎない。

(一)  控訴人は右取下は控訴人の無智経済的窮迫に乗じて松下らがなさしめたものであるから公序良俗に反し民法九〇条により無効であるというけれども、そのような無効原因の主張は本件控訴取下の動機となつた裁判外の和解(私法行為)について許されるとしても、純然たる訴訟行為である控訴の取下については許されず、そのような事実があつても控訴取下の無効原因とはならないから控訴人の右主張は既に主張自体失当といわねばならない。(更に本件では常田が当時経済的に窮迫していたことは認められても井上、松下その他第三者がこれに乗じたような事実は認められず、却つて常田の側より松下側に示談をしつこく申込み示談成立の結果自ら取下をなすに至つたものと認められる。)

(二)  控訴人は控訴取下について常田の合意がなかつたから無効であるというけれども控訴の取下は単独訴訟行為であり、且つ訴の取下の如くその効力発生に相手方の同意を要することはない。もとより、控訴の取下は被控訴人の取下の申入に対し控訴人が承諾してなすものでなく、合同行為でもない。かりに裁判外でそのような経過があつたにしても相手方の申込は取下の動機となるにすぎない(控訴取下の合意は控訴取下自体でなく今問題となつているのは控訴取下自体である)。控訴取下は控訴人の単独訴訟法律行為によつて成立し、その効力は訴訟法的に判定されるものであるところ、前記認定事実の下において本件控訴取下に瑕疵ありとは認められないから、控訴人の右主張は採用出来ない。

(三)  控訴人は相手方が本件取下について代理人の弁護士活動を封じ、直接本人になさしめたものであるから無効である旨主張するが、たとえそのようなことがなされたとしても直にそれがために控訴取下の無効を招来するものではない。

(四)  控訴人は本件控訴取下は常田を精神錯乱状態に追いやつて意思決定の自由を奪つた上でなさしめたものであるから無効である、というけれども前認定事実からはそのようなことは認められない(もつとも常田本人の前示供述中には当時夢遊病者のような状態にあつた旨述べる部分があるが、前認定事情にてらして右供述部分には信用をおくことが出来ず、他にこれを肯認する証拠はない。そして前示認定事実からは常田が訴訟能力を欠いていたとは到底認められない)。

(五)  控訴人は本件取下は松下、井上の共謀による強迫強制強要によつてなされたものであるから無効であり、取消しうるものであるというが、本件控訴取下につき右認定事実からは右刑事上罰せらるべき他人の脅迫、強要等があつたとは到底認められない。よつて、これあることを前提とする右主張は採用出来ない。

(六)  控訴人は本件取下は非弁護士井上清一の介入によつてなされたもので弁護士法違反の点において無効であるというが、たとえ非弁護士の介入によつて本人が控訴取下をなすに至つたとしても取下自体の効力に消長を来さないから、右は主張自体失当といわねばならない。

そして他に右控訴の取下について有効要件の欠缺(訴訟無能力その他)は何ら認められないから本件控訴取下は結局有効と認むべく、これが効力のないことを前提として控訴人が口頭弁論期日の指定を求めたのは失当というべきであるから、ここに本件は控訴取下によつて終了した旨の終局判決をなすべきものとし、控訴人の期日指定申立以後に生じた訴訟費用につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

ちなみに本件期日指定の申立をした控訴代理人土田吉清の訴訟代理権の存否につき被控訴代理人は本人(控訴人)より解任届が裁判所に提出されている以上訴訟代理権は消滅している旨述べるので、この点職権調査により右代理権を肯定したところを説明しておく。本件期日指定申立は土田弁護士よりなされ、右は同人に対する常田よりの解任届提出後になされたものであり、右申立につき改めて常田より同弁護士に対する授権行為がなされた形跡はない。しかしながら、元来訴訟代理権の授権やその撤回(解任、辞任)は観念上民法上の委任やその解除とは別個の単独訴訟行為であり、訴訟代理権の消滅は本人又は代理人よりこれを相手方に通知するにあらざればその効力がない(民訴法八七条五七条)。ところで本件について控訴人より裁判所に対し右解任届は出されているが、被控訴人に対しこれを通知した形跡は認められないから(なお常田より同弁護士に対する解任通知(民法委任解除)もなされていない)土田弁護士には未だ本件の如き期日指定の申立について訴訟代理権はあるものといわねばならない。かりに、被控訴人が右解任の事実を知つていたとしても通知のない限り消滅の効力は生じない(大判昭一六、四、五、民集二〇巻四二七頁)。

(裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 増田幸次郎 井上三郎)

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